ユカタンでの料理修行最後の日

ユカタンでの修行は本当に素晴らしいものになりました。

何店舗も断られましたが、結局とても良いシェフの下で働く事が出来てとても良かったです。

僕も慣れて来たとはいえ、スペイン語を早く話されてしまうとやはり理解出来ない事もあります。

そんな時、ここのシェフは、

「本当に分かったの?分からない部分があったらちゃんと何回も聞きなさい」

と言ってくれて、凄く良く教えてくれました。

何度も説明したり、通じなかったりすると本当に疲れる事と思います。

 

でもちゃんと分かるまで教えてくれました。

 

メキシコ修行にあたりメキシコの包丁は大概切れないので、今回は自分の大事な包丁を持って来ました。

日本の包丁、特に自分のは手入れをちゃんとしてあるので、めちゃめちゃ良く切れるんです。

だから今まで働かせて貰ったメキシコのお店ではみんな僕の包丁を使いたがるし、気づかない間にいつの間にか誰かしら使っています(笑)

それにみんな欲しいって言ってくるのですが、ここのシェフは、

「良い包丁だね」

と一言言ってくれただけで、全然欲しがる事もしません。

このシェフは本当に今までに無いくらい良くしてくれたし、良い奴で本当に感謝しているので、僕が料理を始めた時に買ってずっと大事にしてた包丁を最後の日にあげる事にしました。

 

働く最後の日、感謝の気持ちを伝えてこの包丁をここのキッチンに残していきたい、と伝えた所、

「そんな、この包丁はお前の料理人としての魂だろう。そんなに大事なもの貰えないよ」

と言われたんです。

 

そんなふうに言われると思わなかったから僕もびっくりしましたが、

「だからこそ、このキッチンに僕と君の友情の証として残していきたい。そのくらい本当に感謝している」

と伝えました。

 

そしたらなんとシェフが泣いてしまって…

 

僕も凄く泣きたい気持ちだったのですが、びっくりしすぎて泣けなかった。

 

僕は料理人として、人間としてこのシェフを尊敬しています。

こんな見知らぬ外国人の僕に本当に良くしてくれて、短い時間でもきちんと全ての料理を教えられるように考えてスケジュールも組んでくれました。

それにこのシェフが言うには、ユカタンの近くの村などは観光客に何かしてあげて、お金をもらう、と言う人が沢山いるらしく、料理に関しても教えてあげるからお金、と言うのが当たり前だそうです。

 

でも彼はそう言うのは好きじゃないと言っていました。

 

教えるのは料理だけじゃない、ユカタンならではの言葉や文化、そう言う伝統的な事や魂も含めて教えているから、お金の問題じゃない、と言っていました。

 

男気のある、なんて素晴らしい人間なんだと思い本当にこのシェフのファンになりました。

素晴らしいユカタンの文化と素晴らしいレストランに感謝。